佐賀地方裁判所 昭和49年(レ)10号 判決 1976年3月19日
控訴人 阿會沼龍治
右訴訟代理人弁護士 堤敏介
被控訴人 株式会社長崎相互銀行
右代表者代表取締役 宮本軍次
右訴訟代理人弁護士 森竹彦
右訴訟復代理人弁護士 吉村敏幸
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 別紙目録(一)記載の土地(以下、本件土地という。)は、もと訴外株式会社川上風山荘(以下、訴外会社という。)の所有であったが、訴外会社は、昭和四七年六月一五日、被控訴人に対する債務の担保として、本件土地に根抵当権を設定し、同年八月五日、その旨の登記をした。被控訴人は、右根抵当権実行のため、本件土地につき、競売を申し立て、昭和四八年六月二九日、被控訴人において、これを競落し、同年七月二三日、右競落による所有権取得の登記を経由した。
2 控訴人は、昭和四八年一〇月一三日、訴外田中明から、同人所有の別紙目録(二)記載の建物(以下、本件建物という。)を買い受け、その敷地部分である本件土地を占有している。
3 本件土地の賃料相当額は、月額一、〇〇〇円である。
4 よって、被控訴人は、本件土地の所有権に基づき、控訴人に対し、本件建物を収去して本件土地の明渡しを求めるとともに、控訴人が本件土地の占有を開始した日の翌日である昭和四八年一〇月一四日から明渡しずみまで一か月につき一、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実はすべて認める。
三 抗弁
1 控訴人は、本件土地に短期賃借権を有する。すなわち
(一) 訴外古城戸幸男は、昭和四七年一一月二〇日、訴外会社の代表取締役である訴外田中明に対し、一、〇五〇万円を弁済期日昭和四八年一一月三〇日の約定で貸し渡し、右債権担保のため、訴外会社との間で、本件土地につき、右債務の不履行を停止条件とし、期間五年の賃借権設定契約をなし、昭和四七年一一月二八日停止条件付賃借権設定仮登記を了した。
(二) 控訴人は、昭和四八年一〇月一三日、右田中から、本件建物を買い受けるとともに、右古城戸から右停止条件付賃借権の二分の一の持分を譲り受けた。
(三) 右田中は、右金員を支払わなかったので、右弁済期日である昭和四八年一一月三〇日をもって右停止条件が成就し、訴外古城戸および控訴人は、各持分二分の一の本件土地の賃借権を取得した。
2 仮に、右主張が認められないとしても、控訴人は、本件土地に法定地上権を有する。すなわち
(一) 訴外会社は、訴外田中の個人会社であり、同訴外人とは実質上同一人格とみるべきであるから、本件土地に対する前記根抵当権設定当時、本件土地とその地上の本件建物は、同一人の所有に属していたものというべきである。
(二) 従って、被控訴人が、右根抵当権の実行により、本件土地を競落した際、右田中は本件建物のために法定地上権を取得した。
(三) 控訴人は、昭和四八年一〇月一三日、右田中から本件建物を買い受けた際、右地上権を取得した。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実はすべて否認する。
第三証拠≪省略≫
理由
一 請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
二 そこで、控訴人の抗弁につき判断する。
1 短期賃借権の存否について
控訴人は、昭和四七年一一月二〇日、訴外古城戸と訴外会社間に、本件土地につき停止条件付短期賃借権設定契約が締結され、同月二八日、右賃借権設定仮登記がなされたところ、昭和四八年一〇月一三日、控訴人において、右古城戸から右停止条件付賃借権の二分の一の持分を譲り受け、同年一一月三〇日右停止条件が成就したから、本件土地につき持分二分の一の賃借権を取得した旨主張する。
しかしながら、抵当権設定登記後に締結された停止条件付短期賃貸借契約も、その仮登記を具備する場合には、後日、右条件が成就し、仮登記に基づく本登記がなされると、仮登記の時に遡って対抗力を生ずる結果、当該土地の競落人にも対抗しうるものとなるのであるが、競売申立登記後においても、無制限に停止条件成就による本登記を認め、これを競落人に対抗しうるものとするときは、右条件成就までにいかに長年月を経ていようとも、競落人は、右賃借権によって競落物件の使用収益を妨げられるという甚だ不合理な結果を招来し、ひいては不動産抵当権の担保機能をも著しく低下させることにもなりかねない。このように不動産競落後の利用関係を徒らに不安定なものとすることは、価値権と利用権の調和をはかろうとする民法三九五条の立法趣旨に照らし、とうてい是認し難いものといわなければならず、抵当権に基づく競売申立登記がなされた後は、当該不動産について差押の効力を生じ、処分禁止の効果を生ずることにかんがみれば、仮登記のある停止条件付短期賃貸借については、競売申立登記前に実体上その条件が成就し、賃借権が現実に発生している場合に限り、競売申立登記後において本登記をして競落人に対抗しうるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、≪証拠省略≫によると、本件土地について競売申立登記がなされたのは昭和四八年四月九日であることが認められ、控訴人主張の短期賃借権は、その後である同年一一月三〇日にはじめて停止条件の成就により発生したというのであるから、控訴人は、右条件成就による短期賃借権の発生、取得をもって、競落人たる被控訴人に対抗しえないものといわなければならない。従って、控訴人の前記主張は、その余の点を判断するまでもなく採用することができない。
2 法定地上権の存否について
控訴人は、訴外会社は訴外田中の個人会社であり、両者は実質上同一人格であるから、被控訴人が本件土地を競落した際、右田中において、本件建物のために法定地上権を取得し、控訴人において、右田中から本件建物とともに右地上権を取得した旨主張する。
しかしながら、法定地上権は、抵当権設定当時、土地と建物とが同一の所有者に属する場合にのみ成立するのであって、別個の所有者に属する場合には、たとえ個人会社であっても、法人とその代表者個人との間に、建物のための用益権の設定が可能であるから、法定地上権の成立を認める必要はないものというべきところ、≪証拠省略≫によると、本件抵当権設定当時、本件土地は訴外会社の、本件建物は右田中個人の各所有に属し、それぞれ別個の所有名義をもって登記されていたことが認められるから、控訴人の右主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
三 してみると、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩田駿一 裁判官 三宮康信 窪田もとむ)
<以下省略>